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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)2451号 判決

控訴人 今関文男

被控訴人 国

右代表者法務大臣 坂田道太

右指定代理人 野崎弥純

〈ほか一名〉

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、適式の呼出を受けながら当審における最初になすべき口頭弁論期日に出頭しなかったが、その陳述したものとみなすべき控訴状には、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金三五万円およびこれに対する昭和五五年九月一八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求める旨の記載があり、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、被控訴代理人において乙第五号証を提出したほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する(但し、原判決二枚目表三行目の「2」を削除する。)。

理由

一  控訴人の本訴請求は、先に控訴人の提起した東京地方裁判所昭和五五年(ワ)第二六一号損害賠償請求事件について同裁判所の裁判官が合議体でした判決の理由中の判断に違法がある旨主張し、そのことを前提として右裁判官の行為が不法行為を構成するとして被控訴人に対し国家賠償法に基づく損害賠償を求めるものである。

思うに、裁判官の職務上の行為、したがってまた裁判についても国家賠償法の適用が当然に排除されるものではないが、右についてはその本質に由来する制約が存するというべきである。これを民事裁判についてみるに、民事裁判は当事者間の紛争を公権的・終局的に解決することを目的とするものであり、民事訴訟法は裁判所の判断に対する不服申立の方法として上訴及び再審の手続を規定しているのであるから、民事裁判における裁判官の判断の誤りは、右上訴及び再審の手続によってのみこれを解決すべきものとするのが同法の建前であり、特定の紛争についての民事判決が確定した以上(再審によってもそれが取り消されない場合を含む。)、当事者は、その確定判決に一般の法観念上とうてい是認できない一見明白な瑕疵が発見されるに至った場合は格別、もはや、その判決に違法があるとしてその違法を前提とする国家賠償法に基づく損害賠償請求をすることは許されないというべきである。

二  ところで、前記損害賠償請求事件については、昭和五五年九月一七日第一審の東京地方裁判所において控訴人敗訴の判決が言渡され、次いで同年一二月二四日東京高等裁判所において控訴棄却の判決がなされて、最高裁判所に上告中であった(同裁判所昭和五六年(オ)第二四八号)ことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、右事件については、昭和五六年一一月五日最高裁判所において上告棄却の判決が言渡されて控訴人の敗訴が終局的に確定したことが認められる。

してみれば、控訴人の本訴請求は、確定判決中の裁判官の判断の違法を主張し、これを前提として損害賠償を請求するものであり、その主張するところも、単に独自の見解に基づいて右判決中の判断を非難することに帰着することその主張自体において明らかであり、かかる請求が許されないことは前叙のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきである。

三  よって、右と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 蕪山厳 裁判官 浅香恒久 安國種彦)

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